サッカー選手をかえた言葉

バルバラ・リッチ氏の心に響く言葉より… 


サッカー選手への注目度は非常に高く、ほんの小さなことすら取材の対象になります。 

少し前のこと、イタリア屈指の、また国際的にも非常に有名なチームに所属する、ある若いサッカー選手のお手伝いをしたことがあります。 

この若い選手は当時、リザーブという立場でした。 

彼の前にそびえるのは、ワールドカップに何度も出場した、ファンの信望も厚い、20年近くも同じチームでプレーし続ける偉大な選手です。 

この若者は、当然控えという役割を熱望していたわけではありません。 


記者の前でも、隠すことなく不満を表し、 

「ぼくはあの人と同じくらいやれる。でもベンチにいなければいけない」 

「ぼくはいい選手だ。でも、ある人たちが引退しない限りプレーできない」 

「控えにされるなんて不当だ」 

などと言っていました。 


取材の答えは、いつもネガティブな調子でした。 

その結果は、毎回毎回、彼が文句を言っていると伝える記事です。 

クラブの幹部は、何度も彼を呼び出して、監督の方針と決定に沿った行動をするように申し入れました。 


一方で監督はますます腹を立てて、彼をベンチにとどめておきました。 

彼は落ち込むばかりです。 


この時私が使った作戦は、この経験を「前向き」に転換させるアドバイスでした。 

「あのような偉大な選手の控えでいられるなんて、幸せなことです」と言うようにすること。 

「たくさんのことが学べる、偉大な選手が目の前にいるのは、光栄なことだ」と思うこと。 

「たとえベンチから出してもらえないのは不当だと思っても、それを他の人に言うのは間違いだ」と考えること。 


本当なら、黙って自分の番を待ち、いざ呼ばれた時に最高のプレーを見せるべきでした。 

無意味にしゃべるよりは、自分の才能で証明したほうがいいのです。 


この作戦を実行に移すチャンスは、すぐにやってきました。 

イタリア国営テレビの取材が入りました。 

選手は私と一緒に準備し、何か聞かれた時は、私のアドバイスの方針に従って答えることに決めて、いざインタビューへ。 


この時、彼とメディア、彼とファンの関係に、大きな変化が生まれたのです! 

記者は、彼のポジティブな発言に驚いていましたが、すぐに、もっと前向きで明るい質問へと移りました。 


質問はいつもの「いつもそんなに怒っているのはどうしてですか?」ではなく、 

「調子がよさそうですね。どうしてですか?」 

「もっと学びたい点というと、どういう点ですか?」 

などの前向きなものでした。 


取材の雰囲気はおだやかで、彼はいつもよりリラックスして、笑顔で答えていました。 

翌日、クラブの幹部も変わりました。 

このような明るい発言を聞いて、初めて、彼の問題への理解を示したのです。 

これは、ちょっとしたことに注意し、問題点を直したことで、人との関係をよくすることができた例です。 

『アヒルを白鳥に カエルを王子様に変える本』祥伝社 


バルバラ・リッチさんは、イタリア・セリエAでマーケティング・コミュニケーションのスペシャリストとして、サッカー選手たちをセンスよく、知的で、華麗に磨き上げてきた女性だ。 


バルバラ・リッチさんはこう語る。 

「例えば、何だか感じの悪い選手。 

実は、シャイなだけなのです。 

やけに無愛想(ぶあいそう)で、失礼な感じのする選手。 

本当は、取材への対応方法がよく分からず不安なだけなのです」 


これは、サッカーだけでなく、一般の会社や社会でも同じことが言える。 

自分の発言がまわりの人にどんなふうに聞こえているか、その発言でどんなイメージを持たれるか、等々を考えないで発言している人は多い。 


「アヒルを白鳥に カエルを王子様に」 

ネットの発言も含めて、自らの発信する言葉や態度をもっと磨きたい。