その日はいつものように穏やかな朝から始まった。
私の妻は朝が早い。
7時前にはバタバタと家のこと、身支度を済ませ仕事へと出かけていった。
私はいつものように妻を見送ったあと、朝食を済ませコーヒーを1杯飲み干すと、時計を見た。
7時20分。
「さて、こどもたちを起こすか」
こどもたちを起こすのは私の仕事である。
こどもたちの元へ向かい、声をかける。
「おはよう」
「・・・・・・・・・・」
返事がない。もう一度「おはよう」と声をかけ、二人のこどもの姿を確認しようとのぞきこんだ。
そこには、
寝ているのでなく、倒れこんでいるこどもたちがいた。
こどもたちの上にひもの絡んだ緑の柱が覆いかぶさっている。
今にもおしつぶされそうだ。
「ふさなりっ、あいこっ」
私はあわてて二人にかけより、柱をどけ体をゆさぶった。
返事がない。
冷たくなっている。
「ふさなりっ、あいこっ」とふたたび叫ぶ。
「と、とうさん」
ふさなりが目を覚ました。
身長はそんなにないが、妹のあいこよりは体が太いふさなりは、かろうじて意識を取り戻した。
「待ってろ、とうさんが今助けてやるからな。」
助けを呼ぶにも妻はとっくに家を出ていない。
しかし私一人の力では二人を抱えることはできない。
道具が必要だ。
私は全力で部屋に戻った。
リビングで何か役に立ちそうなものを探す。
探す?
リビングはいつものようにきちんと整理整頓されている。
几帳面な妻は片づけ上手だ。
『整理整頓のコツは、全部の物に居場所を作ってあげること』
妻の言葉が頭をよぎる。
そう、我が家のリビングのものはすべて、いつもの場所にいつものように置かれている。
私も4年、この家に住んでいるのだ。
どこになにがあるかは把握している。
ここには役に立ちそうなものはい。
そう判断して私はロッカーに直行した。
ひもとカッターを手にする。
しかし、これだけでは二人を支えられない。
次にキッチンに向かう。
棒が必要だ。しかし、見つけたのは割り箸。
こころもとなかったが、時は一刻を争う。
割り箸を2本つかみとり、急いで二人のもとへ急いだ。
まずはあいこだ。
そっと体を抱きかかえる。
「さあ、とうさんにつかまれ!」
首や腕がぐったりしている。腕は変色しているようにも見えた。
急がなければ。
割り箸を地面に刺し、ひもを巻く。
はやる手が震える。
あいこの体に2回グルグルと巻き固定する。
「とりあえずはこれでいい。
次にふさなりだ。」
同じように体を起しひまを巻きつけた。
「元気になれよお。」心の中で祈る。
よし!
今私にできることは全てやった。
あとは、あとは、・・・・・・・。
時計を見ると
8時10分。
ああぁ、早く仕事にいかねば。