松下幸之助VSトヨタの激突
難題を抱えた時に
否定的な考え方の人は
ピンチだと思うが、
肯定的な考え方のできる人は
これをチャンスと捉えることができる。
肯定的な考え方の天才
松下幸之助のお話です。
.....................................................
昭和36年。
松下幸之助率いる松下通信工業の幹部全員が集まり
会議が開かれていた。
トヨタ自動車から大幅な値引き要求があったのだ。
松下が納めていたカーラジオを半年以内に
20%コストダウンしろとの要求がトヨタからあったのだ。
これは松下にとって死ね、
というに等しいくらいのムリな要求。
松下の幹部たちは困り果て、言葉もでない。
20%のコストダウンなんて絶対ムリ。
静まり返る会議室に、
あの男が現れる。
松下幸之助の登場だ。
ここから幸之助の伝説のトークが始まります。
第一声はこうだ。
「どうして、トヨタはこういう要求をしてきたんや?」
.....................................................................
トヨタのこの要求の裏には貿易の自由化問題があった。
GMやフォードといった大メーカーとの価格面での競争が本格化し、
このままでは日本の自動車産業そのものが滅んでしまう
という危機感がトヨタにはあったのだ。
「そうか。そういうこっちゃな。
でも、よく考えてみい。
松下がトヨタさんの立場だったらどう考えるかや。
やはり、同じ要求をしていたかもしれんな。
君らは無茶な要求やと驚いてるが、トヨタさんはどうや。
どうすればコストダウンを達成して、
日本の自動車産業を発展させていくことができるかという
危機感でいっぱいやろう。
いわば業界全体、さらには国のためを考えてるんや。
松下一社の話とは違うんや。
ここはできません、と断ってはいかんと思う。
なんとしてでも、値を下げなければならん」
幸之助のこの発言に対して、幹部の一人がこう発言した。
「けれどもトヨタの要求はまず5%、半年後に15%。
計20%という無茶なハードルです」
幸之助はこう返した。
「コストダウンというのは5%、10%を目標にしたらかえってできないんや。
20%となると、もう小手先の知恵ではどうにもならない。
発想を全て変えないとできん。
大きさを半分にしてしまうくらいの発想でないと、
これはできんわな?
これは単に値引き要求を受けたというだけのことではないんや。
日本の産業を発展させるいための
公の声だと受け止めなければならんのやないか?
もし20%の値引きに耐えられる製品ができたら、どうや?
トヨタさんだけやなく世界で通用する製品になるんやないか?」
●会議室の空気が一変した。
この会議に参加していた幹部の一人は
「最初、みんなが困惑して淀んでいた会議の雰囲気が
ぱっと晴れたかのように明るくなった」と、語っている。
「これができたときには全世界の会社が売ってくれと飛んでくるで。
そう考えると、これはピンチやないな。
松下にとって飛躍への天佑やな。
チャンスやと思わんか?
ありがたいことに、
できたら買ってくれるという先まで決まってるんや。
こんなにありがたいことはないで。
普通は納入先を探さなあかんのやからな」
幸之助がこう語り終える頃には、
「やります!!! やります!!! きっとやり遂げます」
と、
幹部一人一人の気持ちは燃えあがっていた。
.....................................................................
最後に幸之助は幹部にこう言ったという。
「よし、その調子やで。ところで、いま利益はどのくらい出とるんや?」
「3%です」
「なに????3%やて? 少なすぎるで、それは」
数分前まで深刻に困り果てていた幹部が、やる気になり、
そして最後のこの会話で笑いが起きた。
やる気があり、笑いもある。
そんなところには
天使が舞い降りる。
............................................................
結果はどうなったのか?
気になるところだと思うので書いておこう。
●松下、コストダウン20%達成。
本気になって協力してくれた松下の心意気に
トヨタも販売台数という形で答えた。
つまり、コストダウン20%したにもかかわらず、
以前よりも松下の利益が増えたのです。
まさに、この瞬間、
松下通信工業がカーラジオのトップメーカーへ踊り出たのである。